研究概要 |
健常者10名を対象に運動前野に経頭蓋直流電流刺激(Transcranial direct current stimulation: tDCS)を行い,刺激前後の一次運動・感覚野の興奮性の変化を比較検討した. 一次運動野の興奮性・抑制性機能変化の指標として,一次運動野を経頭蓋磁気刺激した時に得られる運動誘発電位(Motor evoked potentials: MEP)を第一背側骨間筋から記録した.一次感覚野の興奮性・抑制性機能変化の指標には,尺骨神経への経皮的電気刺激により一次感覚野上から得られる感覚誘発電位(Somatosensory evoked potentials: SEP)を記録した.生理食塩水を浸したゲル・スポンジで覆った導電性ゴム電極を運動前野(一次運動野内の経頭蓋磁気刺激点から3cm前方,2c腹側)に固定し,刺激強度1mAで15分間tDCSを行い,刺激直前,直後,刺激終了15分後にMEPとSEPを記録した.運動前野上に置く電極は陽極と陰極の2通りで行い,不関電極は対側前額部に設置した.実験中tDCSによる不快感や痛みを訴えた被験者はいなかった.運動前野に対する陽極刺激後は,刺激前と比較してMEPの振幅が有意に低下し,SEPは上昇する傾向が認められた.反対に陰極刺激後は刺激前と比較してMEPの振幅が有意に上昇し,SEPは低下する傾向が認められた.このような結果が生じた機序として,陽極刺激では運動前野から一次運動野に対する抑制性入力経路が強化されたこと,陰極刺激では運動前野から一次運動野に対する抑制性連絡に脱抑制が生じたことが推察された.本研究により,これまでに報告されてきた反復磁気刺激と同様に,tDCSによっても非浸襲的に一過性の脳仮想病変の作成が可能であることが確認された.
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