研究概要 |
研究1;運動前野への経頭蓋直流電流刺激が一次運動野及び体性感覚野の興奮性に及ぼす影響 目的:運動前野(PM)に経頭蓋直流電流刺激(tDCS)を行い,刺激前後の一次運動野(M1)及び体性感覚野(S1)の興奮性の変化を検討した.方法:健常者10名を対象とし,PM(M1の磁気刺激点から3cm前方,2cm腹側)にtDCS(刺激強度1mAで正5分間)を行い,刺激直前,直後,終了15分後に第一背側骨間筋から導出されるMEPと,正中神経電気刺激によるSEPを記録・解析した.PM上に置くtDCSの刺激電極は陽極と陰極の2通りで行った.結果:陽極刺激後は,刺激前と比較してMEP振幅が有意に低下し,SEPは増加する傾向を認めた.反対に陰極刺激後は刺激前と比較してMEP振幅が有意に増加し,SEPは低下する傾向を認めた.考察:陽極刺激ではPMからM1に対する抑制性入力が増強され,逆に陰極刺激では脱抑制が生じたと推察した.S1の変化はM1からの入力調節を反映している可能性が示唆された. 研究2;運動前野,一次運動野に対する経頭蓋直流電流陰極刺激が視標追跡描円課題の精度に及ぼす影響 背景:脳仮想病変(非侵襲的かつ一過性に大脳皮質の局所機能を低下させる)作成手段として経頭蓋直流電流陰極刺激(Anodal tDCS)が近年注目されている.目的:運動前野(PM),一次運動野(M1)に対するAtDCSが視覚信号処理を必要とする上肢巧緻運動の精度に影響を及ぼすか否かを検証した.方法:健常者10名を対象とし,PM(M1の磁気刺激点から3cm前方,2cm腹側)とM1にAtDCS(刺激強度1mAで15分間)を行い,刺激前後における視標追跡描円課題の精度を比較検討した.被験者は,液晶ディスプレイ付デジタイザ中央部にて,直径2cmの円周上を6cm/秒で移動する視標を,スタイラスペンで追跡した.結果:AtDCS後における視標追跡描円課題の精度の有意な低下はPMに対する刺激後のみに認められた.考察:AtDCSにより健常者のM1に作成された脳仮想病変は,随意運動によりほぼキャンセルされるが,PMに対するAtDCSの効果は随意運動時にも残存し,視覚信号処理を必要とする上肢巧緻運動の精度に影響を及ぼすことが推察された.
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