研究概要 |
目的:視空間認知(運動認知)障害を詳細に検討できる放射状optic flow (OF,自己運動知覚に関与)刺激を用いて事象関連電位(ERP)や探索眼球運動を記録し、その波形変化を解析することで、非侵襲的かつ簡便に潜在的な視空間認知(運動認知)障害を見出すスクリーニングシステムの構築と、効果的なリハビリテーションを提案する。本年度は、平成19年度と20年度で行った健常老年者群と軽度認知障害(MCI)疾患群でのERPと探索眼球運動の同時記録の結果を基に作成した視空間認知障害スクリーニングソフトを用いた解析と、自己運動感を生じる三次元画像による視覚的なリハビリテーション効果の有無を検討した。結果:スクリーニングソフトを用いると、ERPでは、Baselineを静止ドットとした場合、OF刺激でのN170やP200の振幅低下と潜時延長が健常老年者とMCI群の鑑別に役立つことがわかった。また、Baselineがランダム運動のときは、両群に大きな違いを認めず、昨年と同様に2群の鑑別に役立たないことがわかった。探索眼球運動では、MCI群で視点が定まらず、周辺部と中心部を交互に検索する傾向があり、ERPよりも容易に鑑別可能であった。さらに、三次元画像による視覚的なリハビリテーション効果については、5例中3例で訓練前と訓練3ヶ月の段階を比較すると、OFの認知閾値に多少の改善が認められた。考察:(1) ERPでP200がOF認知機能の指標と成り得ること、(2) HOよりもOFでは複雑な脳内処理が働くこと、(3) 加齢でOFの処理が障害されMCIではその傾向がより強くなること、その誘因として視点が定まらない注意障害が関与する可能性が示唆された。従って、OF刺激を用いた認知閾値測定やOF刺激のERPを後頭頭頂部から記録することで、早期からの視空間認知障害の診断・鑑別が可能で、しかも三次元画像によるMCIに対する視覚的リハビリテーションの効果が期待できることがわかった。
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