脳卒中後の運動機能(片麻痺)の回復は、大脳の運動ネットワークの機能代償や再構築、学習による新しい神経ネットワークの形成(可塑性)によってもたらされると考えられている。このような脳卒中後の脳に起こる生理学的、解剖学的な動的変化を計測、画像化し、脳卒中後の運動機能回復の機序を解明するために、われわれは、functional MRI (fMRI)と、MRIの拡散テンソル・トラクトグラフィー(DTT)による錐体路(皮質脊髄路)の描出の同時計測を行ない追跡した。脳卒中後の患者が麻痺手を運動する際に活動する脳の領域は、正常人が手を運動する時に活動する脳領域と大きく異なる。最も重要な運動経路である一次運動野あるいは錐体路の機能が障害されると、それを補うために、神経連絡を持った両側の運動ネットワークが代償的に動員されて、広範に活動するのが観察される。脳卒中後に見られる運動ネットワークの活動の変化には、(1) 対側運動野の機能の回復、(2) 対側運動野の活動領域の拡大、(3) 同側運動野の活性化、(4) 二次運動野の活動の拡大、などがある。脳卒中後の脳機能の再構築は動的な変化であり、片麻痺の回復は、既存の運動ネットワークの損傷の程度に応じて、可逆性障害からの回復に加えて、大脳運動ネットワークの代償、動員、さらに、その再構築を駆使して最良の運動機能の回復を得るために可塑性を引き出す機構が存在すると考えられる。このような脳活動の変化は、脳卒中発症後の1ないし2か月以内に最も強く認められ、脳卒中後の機能回復の臨界期が存在することを示唆している。運動ネットワークの再構築と運動機能の回復の関連についての研究は、脳卒中リハビリテーションの科学的基盤を提供する重要な研究課題であると考えられる。
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