ヒトにおける歩行運動は左右および上下肢によるパターン化され、かつ自立性を備えたリズム運動であり、そのリズムは脊髄に存在するパターン発信器(CPG)によって半自動制御的に形成されることが明らかにされている。興味深いことに、ヒトは歩きながら上肢を用いて作業することも可能であることから、CPGと同様の神経機構がヒトにおいても機能していると考えられる。しかし、現時点でヒトにおいて上肢と下肢のCPG間の相互作用については不明な点が多く残されている。そこで、本研究では、ヒトにおけるCPGの機能を実験的に調べる手段の一つである上・下肢ペダリング運動を用い、その遂行状況や文脈に依存して上肢と下肢の協調関係にどのような変化が生じるのかを明らかにしようとした。 平成20年度の研究では、上・下肢ペグリング運動の速度定常性に対する運動文脈の影響について検討を加えた。特に、上肢と下肢の運動をする開始順序がペダリング速度の定常性に及ぼす影響について調べた。その結果、下肢ペダリングを上肢ペダリングに先行させた場合に限り、下肢のペグリング速度が有意に変化することが明らかになった。これらの知見は、上下肢同時ペダリング運動中の上下肢の協調を制御する神経機構間の連結は、運動を開始する肢の順番という運動の文脈に応じて柔軟に変化することを示唆する。さらに、これらの知見は、上肢と下肢の律動運動を制御する脊髄システムは相互干渉することを示唆する。
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