本研究の目的は、歩行中の予測不可能な外乱に対してヒトが行う姿勢制御のメカニズムを解明することである。平成19年度は健常な成人男性7名を対象とした実験を行った。被験者は9回の通常歩行の後、1回の予測不可能な踏み外しを行った。10回の通常歩行をするとだけ教示し6.5cmの段差を設けることによって、被験者が外乱発生の可能性をまったく予期していない日常での踏み外しに近い条件での測定を行うことができた。 踏み外しに際して踏み外した側の腓腹筋は、踏み外した瞬間から約100msというかなり短い潜時での活動を示した。これは実際の着地よりも前のまだ足が空中にある段階での活動であった。ヒラメ筋や前脛骨筋も着地を待つことなく活動を開始していた。この結果は、この筋活動が着地に伴う体性感覚情報に対する単純な反射ではないことを意味しており、予測された感覚入力と実際の感覚入力との差分が筋活動を引き起こす上で重要な役割を果たしているということを示している。これらの足関節筋群の活動は、歩行を停止するときの活動や高いところから降りるときの着地前に見られる活動と似たパターンであったことから、予想外の外乱に際して歩行にブレーキをかけ着地に伴う衝撃を吸収するという役割を持っていると考えられる。ヒトは、着地によって得られるはずの感覚入力を予測し実際の感覚入力と比べるというフィードフォワード・フィードバック両方のメカニズムを用いることによって、歩行中の予測不可能な外乱に対応することを可能にしている、ということが示唆された。
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