道具を扱うタスクでは、手先力の情報がヒトの運動の学習や制御に影響を及ぼし、運動や力の軌道にも影響を及ぼしていると考えられる.本研究では、ヒトが手先力の情報を用いて運動計画をしていることを確認するために、心理物理実験として幾何学的拘束下でのリーチング運動としてクランク回転タスクを用い、その運動を予測する力覚変化最小規範を提案し、この規範が外部環境との接触のない非拘束運動も含めた多くの運動を再現することによって、ヒトの運動制御において手先力の感覚情報が重要であることを示した. 実験では、タスクを行っている最中に、被験者の手先に働く力の体性感覚信号を抑制することによって、運動のプランニングに、手先に働く力を実際に利用しているのかを検討した.手先の体性感覚信号を抑制する方法によって、ヒトが手先の力情報を直接得られなくする方法を用いたクランク回転タスクによる実験と、シミュレーションによって検討した.シミュレーションでは最適制御運動として数値計算を行い、運動規範(目的関数)としての「力覚変化最小規範」が、「(運動指令+手先力)変化最小」の形で表現されるが、実験結果が「力覚変化最小」ではなく、「運動指令変化最小」で予測された軌道に近づいた.このことは、手先の力情報が得られないときには、駆動入力(関節トルク又は筋力)だけを滑らかにするように運動を実現していることを意味する.このことは逆に、手指の体性感覚情報を運動のプランニングに利用していることが明らかになった.
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