研究概要 |
本年度は,打点位置の高低に対する打撃動作の違いをキネティクス的に分析すること,および左右上肢とバットにより構成される閉ループ系を対象とした順動力学的分析を行うことであった.本年度の主な結果を以下に示す. (1)打点位置の高さを変化させた実験条件において,センサ・バットを利用して得た左右各手のキネティクス的情報から,逆動力学演算によって,上半身の各関節におけるキネティクス的分析を行い,上半身の各関節の諸量の特徴について明らかにした. (2)ピッチングマシーンによって投球されたボールでの打撃実験では,センサ・バットの長軸力測定用ひずみゲージの耐久打撃数は,60試技程度であるととがわかった. (3)順動力学的分析手法を,機構的な閉ループ系を有する動作である野球の打撃動作に拡張・適用することによって,上肢によるバットヘッド速度獲得のメカニズムを解明するための定式化を行った.すなわち,関節の幾何学的拘束条件を考慮した剛体セグメントによりモデル化した左右の各上肢,ならびにバットから構成される多体系の運動方程式を導出し,この運動方程式を変形することによって,バットヘッド速度に対する左右上肢の肩・手首関節モーメントおよび肘関節トルク,肩関節力,運動依存項,ならびに重力の貢献を定量化可能とした.その際,上肢とバットが構成する機構的閉ループ問題については,センサ・バットによって得たキネティクス情報を用いて解決した.分析の結果,バット速度には,関節モーメントだけでなく,運動依存項も大きく貢献することがわかった.このことは,左右上肢ならびにバットの動き等を利用したヘッドスピードの獲得が行われていることを示している.
|