本研究は、重度障がい者が参加できうる数少ないスポーツ種目の一つである陸上投てき競技に蕉点を当て、個々の障がい者選手の身体状況に適応したスローイングチェアを容易に模擬作成することができる調節式スローイングチェアの開発をすすめ、普及することを目的としている。このことにより、障害の種類や程度に関係なく、誰もが気軽に投てき競技を体験でき、結果、スポーツ活動への参加を促し、これが契機となり、社会参加促進、ひいては自立生活支援の一助となることを目指している。 今年度も、昨年度に引き続き、実際に障がい者投てき選手に試用し、より重度の障がい者選手の多様な障害像に適合可能になるよう、設計を見直し抜本的な改良を加えると共に、オプションパーツ等を中心にスローイングチェアIII型の開発研究を進めた。 国内の障がい者陸上選手権大会等でも、本機がフィールド会場に複数並ぶとともに、各選手において良好な成績を上げており、試用を希望する選手が増加してきている。 一方、国内の陸上競技場の投てきサークルの周囲はゴム製の床面になっているため、杭等を打ち込み固定することができない。介助者による人的な固定では、投てき時にスローイングチェアが動いてしまい、競技成績に大きな悪影響を及ぼしていた。そこで、昨年度、一級建築士と共同で、サークル上に設置する木製の投擲固定台を研究、開発した。投てき時に固定台が微動だにしないこと、車いすによる移乗等がスムーズに可能な広さを有すること、ルールに抵触しないこと、自家用車による持ち運びが可能なことを条件に、試作等を試みた結果、2x4形式の木製の固定台を作成した。本機は、東京で開催されたアジアパラユースでも使用され、非常に好評であり、現在は、ジャパンパラリンピックおよび日本選手権大会等の主な国内の障がい者陸上大会にて使用されている。 スローイングチェアについては、東京都障害者総合スポーツセンターに1台を設置し、脊髄損傷等の選手が実際の投球を行いながら、コーチとともに自身で具体的な調節をすすめ試用しており、他の選手にも広まってきている。また、神奈川、兵庫の選手からも試用の希望があり、いずれの選手も国内新記録、大会記録を更新しており、2012年にイギリスで開催されるパラリンピック代表選手になるべく、トレーニングに励んでいる。また、福島県の教育委員会(特別支援学校)が、スローイングチェア及び投てき固定台を購入し、特別支援学校等に設置し、重度障がい者の投てき競技の普及を図っている。今後、この福島モデルを例に、全国各地で試用し、障がい者投てき選手の競技力向上に努めると共に、特に車いすレース等に参加することが障害のために困難な重度障がい者等への普及につとめる所存である。
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