本研究では、捕捉運動を取り上げ、その動作失敗の要因について検討するために、認知・予測・運動制御という一連の動作において、認知・予測能力に着目し、その能力について評価を行った。 平成19年度は、運動物体の認知予測特性の評価実験について主に実施した。認知予測タスクと捕捉タスクの検討、仮想環境画像構築、構築システム評価実験については、十分に実施できなかった。これらについては、平成20年度に再度計画することとした。 本研究では、物体運動の位置予測タスクを設定し、遮蔽された運動物体の位置予測特性について検討した。遮蔽後の運動物体の予測位置を過小評価することから、遮蔽物体の運動速度(予測速度)は、実際よりも遅く見積もられることが既に判明している。しかし、なぜ遮蔽後は実速度より低下するのか、予測特性における大きな疑問であった。この原因解明のため様々な条件下で実験を行った結果、原因が脳内における運動モデル、すなわち遮蔽後の速度表象にある可能性が見いだされた。Steinbach(1976)は、眼球運動は脳内モデルを反映すると報告しており、このことからタスク中の眼球運動を測定し解析することとした。 等速1m/sの運動物体では、遮蔽前は正確に位置の認知が可能であるが、遮蔽後は移動距離を過小評価し、速度を遅く見積もった。眼球運動の速度を視点の移動距離と時間から求め、遮蔽前、遮蔽後について解析すると、遮蔽前は実速度と同じ速度で、遮蔽後は実速度の50%程度で、かつ予測速度と同じ速度を示した。このことから遮蔽後の物体速度の低下は、遮蔽により速度表象が低下することに起因することがわかった。これは予測エラーが、物理的環境ではなく、脳内において構築される心理的運動モデルに影響されるという、ヒトの予測特性を示唆するものである。これは、動作の結果を左右する重用な要素であることから、今後の研究にとって重要な意義を有する。
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