本研究の目的は、3次元動作・力学解析により前十字靭帯機能不全の不安定性のある膝と正常膝の間で、運動時の関節の動作の違いを解析し、比較検討する方法を確立すること、そしてその方法を用いて、病態の解析やリハビリテーションの効果や手術成績の評価を行うことであった。 研究初年度の平成19年度は、3軸の加速度・角速度・地磁気を測定できる複合慣性センサを用いた関節運動の3次元的な解析を行うことを目標にした基礎段階の研究を行った。対象とした関節運動は、前十字靭帯損傷による不安定性のある膝に出現するpivot shiftといわれる異常運動である。大腿部と下腿部の皮膚上に設置したセンサから得られたデータに対して解析を行った。解析においては周波数フィルタにより関節の屈伸運動とpivot shiftに伴う急激な動きを分離した後、各々の要素に対し計算を行った。その結果、このシステムを用いて、pivot shiftによる関節の動きをその間の加速度として、算出・評価し得た。 平成20年度においては、前年度の成果に基づき、このセンサを用いて、加速度のみでなく、関節における3次元的動作(屈伸・内外旋・内外反など)の解析を行うための基礎的研究を行った。その結果、歩行や階段昇降などの動作について、センサを用いた3次元動作解析のシステムを提案することができた。 平成21年度は、この解析システムを実際に前十字靭帯機能不全のある患者に対して用い、pivot shiftの運動解析を行った。また得られた結果を正常例での解析結果と比較検討した。その結果、本システムを用いてpivot shiftにおける大腿骨・脛骨間の動きの加速度を測定・算出できること、また正常例ではこの動きは認められないことを明らかにでき、臨床における本計測システムの意義を証明し得た。
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