酸化ストレスは筋収縮時に生じる。運動時の糖取り込み亢進に寄与するシグナル伝達系のひとつとして、酸化ストレスを生じさせるキサンチンオキシダーゼ→過酸化水素が関与する、との仮説を検証するために研究を継続してきた。意外なことに、その系は糖取り込み能について、インスリンシグナルの一部を介する可能性があることが判明した。そして、その経路の下流には一酸化窒素によって刺激される系が存在することから、本年度は、骨格筋の糖取り込み亢進のシグナル分子として一酸化窒素刺激の相互作用の分子メカニズムを明らかにすることを目的として、特に一酸化窒素合成酵素プロモーター領域に存在するCpGアイランドのメチル化について筋線維タイプ別の評価も加えて行った。遺伝子プロモーター領域でのDNAメチル化は、遺伝子発現を抑制していることが知られている(エピジェネティックな調節)。 被検筋として、マウス下肢筋の赤色部と白色部、及びヒラメ筋を摘出した(他の研究で飼育しているマウスで実験を行った後、解析に用いない下肢筋を提供していただいた)。筋サンプルよりDNAを抽出した後、bisulfite(亜硫酸水素塩、BS)処理を行った。BS処理はメチル化を受けていないシトシンはウラシルに変化するが、メチル化シトシンは構造上安定なため変化を受けず、メチル化DNAと非メチル化DNAに塩基配列の違いが生じる。この違いをパイロシークエンス法により定量化した。現在のところ、メチル化を起こすと考えられる領域の約10%について定量化を行い、メチル化を受けている領域は認められなかった。今後、定量化の領域を広げ、平成22年度も継続して研究を行う予定である。
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