これまでの研究により、筋肉細胞のエネルギー状態が低下した状況では、その後の運動や栄養摂取によって糖質の同化反応(グリコーゲンの合成)が大きくなることが明らかにされている。一般的に体内で各栄養素(糖質・脂質・タンパク質)の同化反応と異化反応は同調することを考えると、筋肉細胞内のエネルギー状態が低下した状態での運動や摂食は、糖質だけでなくタンパク質の同化も増大させる可能性を示唆している。そこで、本研究では、筋肉内グリコーゲンが枯渇した状態(筋肉が低エネルギー状態におかれた状況)で食事を摂ると、筋肉内にグリコーゲンが充たされているときに比べてタンパク合成反応が大きいか否かについてラットを用いて検討した。その結果、ラットに給餌後6時間もしくは24時間の時点でロイシンを経口投与したところ、骨格筋のタンパク合成の指標である4E-BP1のリン酸化は、食後6時間に比べて24時間で約60%大きくなることが明らかになった。また、上記のメカニズムとして、筋細胞内のアミノ酸(特にBCAA)濃度の低下が、食後のタンパク合成の増大を導くのではないかという可能性が考えられたため、ラットを無タンパク食で2週間飼育した後にロイシンを経口投与し、骨格筋と肝臓の4E-BP1のリン酸化を測定した。その結果、腓腹筋および肝臓における4E-BP1のリン酸化は、30%タンパク食群に比べて0%タンパク食群で有意に増大すること(約20〜25%)が明らかになった。以上の結果より、タンパク質の同化も糖質同様に細胞内のエネルギー状態が低下しているときに増大することが示唆された。
|