研究概要 |
児童生徒にとって,日中のほとんどを過ごす学校生活における様々な出来事や経験は,人格形成や学業成績だけでなく彼らの健康状態にもきわめて大きな影響を及ぼすものと思われる。近年,WHOをはじめとする欧米の研究者は,学校生活の中で,学校満足や学校関連ストレス,社会的支援などを含む包括的な心理社会的学校環境と児童生徒の健康結果との関連性に注目した概念モデルを提案しており,多くの研究により,支援的・受容的な学校環境は保健行動や主観的健康,well-beingの発達の資源となり,一方,非支援的・ネガティブな学校環境はこれらの危険因子となることが示唆されている。 我々は,心理社会的学校環境概念モデルを適用して,わが国の児童生徒の健康状態を説明することを試みてきた。これまでに,当モデルの構成概念妥当性および信頼性の評価を行い,同時に概念間と自覚症状との関連性や因果構造を明らかにした。また,心理社会的学校環境と生体的ストレス指標や抑うつ症状,危険行動との関連性を示唆する知見を報告してきた。 上述の先行研究は主として心理社会的学校環境に対する個人レベルの認知過程を中心に扱ってきたが,児童生徒の健康結果には,個人レベル要因だけでなく,学校や学級の健康方針や雰囲気・風土といった集団レベルの共通環境要因も何らかの影響を及ぼしていると考えられる。したがって,心理社会的学校環境の健康影響を理解するためには,個人レベル要因と集団レベル要因の両方を考慮し,マルチレベルの現象としてモデル化することが必要となる。これまで,わが国の児童生徒の健康結果についてマルチレベルの要因から検討した研究は皆無であったことから,学校・学級レベル要因の健康影響の程度はほとんど明らかになっていない。本研究は,わが国の学校保健分野におけるマルチレベル研究の嚆矢となる。 本研究の目的は,小・中・高校の児童生徒を対象として,個人の心身の健康状態および健康危険行動に個人レベルおよび集団レベルの心理社会的学校環境要因がどのような影響を及ぼしているかについて明らかにすることである。
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