本研究は、福祉援助職のメンタルヘルスの実態と社会福祉事業者のメンタルヘルス対策の現状を明らかにした上で、福祉援助職のメンタルヘルスの維持・向上を図り、質の高い利用者支援を提供していくために必要な、労働環境や支援体制等のあり方について示すものである。平成20年度は、社会福祉士を対象としたストレスに関するアンケート調査、社会福祉施設を対象とした福祉援助職のメンタルヘルスに関するアンケート調査、及び先駆的なメンタルヘルス対策に取り組む社会福祉施設に対する聞き取り調査を実施した。2つのアンケート調査からは、福祉援助職の間で、ストレスやメンタルヘルス不全が問題になっている実態が明らかになった。また、ストレス要因については、福祉援助職自身と施設の人事担当者との間に認識のズレが見られた。例えば、福祉援助職は「待遇面の悪さ」を最大のストレス要因と感じているが、人事担当者は「職員の個人的要因」がメンタルヘルス問題の要因だと考えている、などである。一方で、「福祉援助職が健康で生き生きと仕事を続けるために必要な支援や環境整備」としては、両者とも「待遇改善」がトップに上がっており、労働者と使用者の共通の関心事になっていることが分かった。さらに、メンタルヘルスに関する事業者の意識は高いが、具体的な対策はほとんど取り組まれていない現状が明らかになった。そのような中でも、職員に対するケアの重要性への高い認識を持って、組織的な職員支援の仕組みを作り、成果を上げている法人もあった。今後は、福祉援助職に対するケアの重要性についての啓発、具体的なメンタルヘルス対策に関する情報提供が必要である。また比較的小規模な事業者が大半を占める社会福祉業界においては、業界全体で問題を共有し、業界として組織的な取り組みを展開していくことなどが課題である。
|