本実践は非保健職である本社人事担当者が、時間管理の重視や過重労働対策についての教育実践等を通じて時間外労働の短縮を行ったものである。 調査対象者である人事部員の所属する企業X社(上場企業、製造業)において、平成19年10月より実践に着手した。調査対象者が主として、(1)労働時間管理、(2)事業所産業医との契約更新、職場環境改善等の教育・指導を徹底した結果、過重労働が顕著であった3部門(設計、製造、納入)において次のような改善が見られた。 実践の前後、すなわち平成19年度第3、4四半期の6ヶ月と平成20年度同期間の部門別月平均時間外労働時間(総時間外労働時間÷労働者数)を比較すると、設計部門は36.3時間から27.8時間、製造部門は42.4時間から23.1時間、納入部門は57.6時間から32.5時間に減少した。 過重労働対策が進捗したことは明らかであるが、調査対象者による実践以外の重要な要素も加わっていると考えられる。 それは、(1)経営トップによる時間外労働削減方針の通達および、(2)平成20年10月以降のサブプライムローン問題に端を発した大不況による受注減である。(1)については調査対象者である本社人事担当者の教育活動が、間接的に役員層に好影響を及ぼしたと考えられる。 しかし(2)についていえば、人事部の教育による改善活動が、労働生産性の向上を通じて過重労働対策になったか否かの検証を困難にした。今後X社の協力を得て、本調査のデータをもとに、新たな生産性の指標、たとえば単位売上あるいは生産高当りの残業時間数とする分析も必要と考えられた。
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