【背景と目的】近年の研究の進歩により、脂肪組織は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなくアディポカインと呼ばれる種々の生理活性物質(遊離脂肪酸、TNF-α、レジスチン、レプチン、アディポネクチン、PAI-1アンジオテンシノーゲンなど)を合成・分泌する場であることが明らかになった。我々は、これまでの成果をふまえ、健常者における肥満度(BMI)や血圧、血糖、脂質などの変化、およびメタボリックシンドローム(MetS)の発症に関与する、血清高分子量アディポネクチン(HMW-ADPN)濃度やライフスタイルの影響、および糖・脂質代謝や動脈硬化に関与する酸化ストレスマーカー、および遺伝子多型(SNPs)との関連を、6~9年にわたる縦断研究で検討した。 【対象と方法】当センターの実施する定期健康診断の対象となる教職員(20~65歳)のうち、本研究に関してインフォームド・コンセントの得られた者を対象とした。2000年をベースラインとして、健常人およびMetSにおける血清HMW-ADPN濃度やライフスタイルとの関連、および糖・脂質代謝や動脈硬化に関与する酸化ストレスマーカー(d-ROM)やSNPsと、BMI、腹囲、血圧、血糖、脂質、肝機能、尿酸値などとの関連を検討した。血清中のインスリン、アディポネクチン、および高感度CRP濃度は、EIA法にて測定した。SNPsの解析には、末梢血白血球よりDNAを抽出しTaqman法またはInvader法にて解析した。 【結果と結論】(1)6~9年間の縦断研究において、MetSの新規発症群は非発症群と比較してベースラインの血中HMW-ADPN値が有意に低値であった。また、健常男性において血中HMW-ADPN濃度が2.65μg/ml以下の群ではそれより高値の群と比較して有意に高いMetSの発症を認めた。(2)血清d-ROM濃度は高感度CRPと関連が認められたが、ライフスタイルやPPARγ等のSNPsとの関連は認められなかった。 結論として、血中HMW-ADPN値が低値の群には、ライフスタイルの改善等何らかの介入をする必要性が示唆された。
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