1.目的:本研究は、運動不足の中高年者を対象に、低圧低酸素環境下における一過性の歩行運動に対する各個人の末梢循環の動態(研究1)、さらに、12週間のトレーニングが末梢循環動態及び動脈硬化度(研究2)にどのような効用を及ぼすかを検討した。 2.方法:歩行運動は、低圧室を使用した。研究1は、平地(NE)、標高1500m(HE1)及び標高2000m(HE2)で歩行運動を行わせた。研究2は、研究1の結果(末梢循環、動脈血酸素飽和度、心拍数、自覚的運動強度)を基に、個人に適した標高を求め、12週間にわたり週1〜2回の頻度で、60分間歩行運動を行わせた(予備実験では、週3回頻度の運動が生体負担度も大きく、疲労蓄積の傾向がみられた)。 3.結果及び考察:研究1では、運動終了後の加速度脈波波高比のb/a値がHE1及びHE2がNEに比べて有意な低下を示した。d/a値は、HE1及びHE2がNEに比べて有意な増加を示した。HE1とHE2の間には、有意な差がみられなかった。運動中の動脈血酸素飽和度は、HE2がHE1に比べて著明な低下を示した。研究2では、標高を生体負担度の少ない1500mでトレーニングを行わせた。トレーニング後のb/a値は、トレーニング前に比べて有意な低下がみられ、d/a値は有意な増加を示した。トレーニング後の脈波伝播速度は、トレーニング前に比べて有意な低下を示した。以上の成績から、中高年者では、標高1500mでの運動が適度な低酸度の負荷がかかり、十分な効果が得られること、歩行運動終了後も末梢血管も拡張、血流量の増加等から、末梢循環を一時的に改善すること、さらに、定期的な歩行運動は、安静時の末梢循環を比較的早期に改善すること、動脈硬化の予防や改善に期待できることが示唆された。
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