高齢者の身体機能特性を中心に人間工学的側面から、高齢者の台所作業実態を把握する調査を行った。対象は都市部よりも自立した生活を迫られている過疎農村を取り上げた。農村は土間があり改築後も土間に床を張った跨ぎ越しの段差が多い住宅構造であること、台所作業時に納屋を行き来するなど都市部とは空間のあり方や作業の仕方も異なり安全上の問題も多いと考えられる。舞鶴市郊外と滋賀県高島市郊外で調査を実施した。対象者は65~79歳の10名の女性であり、それぞれが居住する住宅を対象とした。結果は次の通りである。生活環境について、住宅構造は木造家屋が大半であり段差箇所が玄関の上框、廊下と各室の間、居間と台所の間、勝手口上框、台所と土間との間などに多数みられ、土間や上框では30cmを超えるものもある。温熱環境については、夏冬ともに外気温との連動が強く、冬の室温は推奨基準値を満たしていない。また居室間、台所の上下高さ、使用時と不使用時での温度差が大きい。夏は湿度の高さが目立ち、80%を超えるものが多いがエアコンは使用頻度が少ない。熱中症予防のためにも湿度制御としてのエアコン使用の啓蒙が必要である。光環境は、いずれの住宅も軒が深く日中の室内照度は低いが、人工照明を点灯している住宅は少なく、作業に必要な明るさは得られていない。階段の光環境も悪く、危険を伴うことから、日中であっても人工照明点灯が必要である。生活行動については、対象者に共通して「家事行動」と「移動行動」で心拍、血圧の上昇がみられる。「家事行動」では腰部負荷がかかる動作時に心拍、血圧が高くなる。台所作業の姿勢分析では、膝を伸ばした前傾姿勢や伸長姿勢が多くみられ、いずれも心拍上昇を誘発している。また片足立ちは不安定な姿勢であり、台所設備のあり方が起因している。台所は開口部が多いため壁面収納が少なく、シンク下や吊り戸棚が収納の中心であることも関連している。
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