平成19年度は、高齢者に対する虐待行為に関する国内外の資料および文献収集を行い、これまで行われてきた高齢者虐待に関する実態調査研究を分析した結果、下記のことが明らかとなった。(1)弱者・依存者を支配・拘束する介護暴力、(2)家族という親密な関係で引き起こされる愛情暴力、(3)「ウチ」「ミウチ」意識のなかで起こる密室暴力、(4)被虐高齢者および加虐養護者双方の自覚・認識の欠如、(5)虐待者や高齢者の性格や人格、人間関係上の問題に多くは起因する。 以上から、下記の仮説が導き出された。 (1)虐待は、特殊な家庭において、ある特定の状況下で、特定の高齢者のみに対して、必然的に引き起こされる問題ではない、(2)どこの家庭においても、どのような高齢者に対しても、虐待が引き起こされる可能性はいつでもある、(3)虐待は、特殊な家庭において、ある特定の状況下で、特定の養護者が、必然的に引き起こす問題ではない、(4)どこの家庭においても、どのような養護者においても、虐待を起こす可能性はいつでもある、(5)虐待をしてしまった養護者は、故意に虐待をしたとは限らない。虐待したくてしたのではなく、虐待をせざるを得ない状況におかれたことにもよる、(6)今、うまく介護ができている家庭においても、事態が変化すれば、虐待が引き起こされてしまうかもしれない。ぜったいに虐待は起こらないという保証はない、(7)虐待をしてしまうか、あるいは虐待をせずにすんだかどうかは紙一重であり、養護者および家族を、盲目的に、虐待危険軍とみなしてしまってはいけない、(8)養護者が、ときに高齢者から暴力を受けて被害者となり、逆虐待も起こりうる。
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