平成21年度は、引き続き、京都市社会福祉協議会および京都市内の居宅介護事業所のケアマネジャーの協力を得て、在宅介護家族21ケースを取り上げ、検討をおこなった。その結果、 1. 虐待の疑い発生率は約10%。虐待はどこの家族でもいつでも起こる可能性のある問題としてとらえられる。高齢者本人および家族それぞれの思いをくわしくみていくと、介護者がまったく何もしないのではなく、その人なりの介護を続けていることや、また高齢者本人も虐待を受けていてもこのまま家族とともに自宅で暮らしたいという思いが強く、「これは果たして虐待であろうか?」と判断に迷い、福祉や保健医療による介入が難しい閉塞的な事例が多くみられる。 2. 高齢者介護には以下の2つのジレンマが指摘できる。 (1)「誰に介護してもらうのか・誰が介護をするのか」という介護役割に対する問いかけである。「家族に頼りたい・頼るしかない」という高齢者の思いがあり、介護者では「見捨てられない、私しかいない」という思いが示される一方で、ケア役割は先に逃げるほうが勝ち、死ぬのは早いほうが勝ちとの思いもある。 (2)「何のために」という介護理由に対する問いかけである。高齢者は「面倒をみてあたりまえ、何も世話になっていない」という思いがある。介護者では「家族だからあたりまえ、弱音は吐けない」という思いが示される一方で、「報われない、つらい、見るのもいや。我慢も限界。やさしくできない」という心情も吐露される。 3. 高齢者虐待には以下の下記の3つの暴力が指摘できる。 (1) 一生懸命の「よい介護」のなかでも引き起こされる、「逃げられない、逃げない」という「介護役割義務による暴力」 (2) 家庭という私的空間で起こる、「許されるし、許す」という「密室での暴力」 (3) 家族という親密な関係のなかで引き起こされる、「無意図的にしてしまうし、それを受け入れる」という「愛情による暴力」
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