研究概要 |
野菜や果物をカットし、放置、貯蔵すると褐変することは食生活上よく経験する現象である。近年カット野菜特にカットレタスの流通・消費が増大しているが、カットレタスの主たる品質劣化要因はこの褐変である。褐変の制御は困難であり、現在は低温流通、低温貯蔵でその速度を遅くすることで実用的に対処している。そのため消費期限は3日程度と短く、褐変を遅らせ日持ちを延長させる安全でかつ簡便な新たな制御法が求められている。カットしていないレタス葉中にはポリフェノール類はほとんど存在しないが、カットするという障害応答により、ポリフェノール生合成のキー酵素であるPALが誘導され、ポリフェノールが新たに合成される。合成されたポリフェノールはポリフェノールオキシダーゼの作用により順次酸化され褐変していく。よって、酵素的褐変を制御するには、ポリフェノール生合成系を抑制すればよいことになる。我々はこれらの研究を背景に、新たな安全で安心できる褐変制御法を開発する目的で食品由来ポリフェノール生合成酵素阻害剤を探索し、GRASであるシンナムアルデヒドにより酵素的褐変が抑制されることを見出した(Biosci.Biotechnol.Biochem., 70, 672, 2006)。本研究の目的は、シナモン由来のシンナムアルデヒドがどのような機構で褐変を抑制するかを明らかにするとともに、シンナムアルデヒド処理がカットレタスの品質に及ばす影響を評価することである。本年度は主に抑制機構について調べた。シンナムアルデヒド処理したカットレタスのPAL活性は、貯蔵3日目に有意に抑制された。この時PALタンパク質量はコントロールに比べ半減していた。処理12時間後のPALmRNAの発現レベルを調べたところ、コントロールでは20-30倍に増加したが、処理区では5倍しか増加しなかった。以上の結果より、シンナムアルデヒドは、カットによるPALの発現誘導を抑制することで、ポリフェノールの生合成誘導を阻害し、貯蔵褐変を抑制すると考えられた。
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