嚥下機能の低下した者にとって食べやすいとされる食品の基礎データを集積するために、咀嚼によって破砕しかされない寒天ゲルと融解現象を伴うゼラチンゲルについて、咽頭部での食塊の流速と摂取量ならびに咀嚼回数との関係について検討した。1.0%寒天ゲルと3.0%ゼラチンゲルを試料とし、試料の1回の摂取量を3、6、9、12g、咀嚼回数を5、10、30、50回とした。超音波画像診断装置(NEMIO SSA-550A型 東芝メディカル社製)を用い、嚥下時の咽頭部の食塊の流速をパルスドップラー法により測定した。また、レオナー(RE-3305S 山電社製)により咀嚼後の試料のテクスチャー測定を行い、硬さと付着性を求めた。併せて、女子学生9名を被験者とし、-2〜+2の5点尺度法による官能評価を行った。その結果、寒天ゲルの硬さは、摂取量が同一の場合、咀嚼回数が増えるに従い低下したが、30回咀嚼と50回咀嚼ではその差は小さかった。同一咀嚼回数では、咀嚼量が増えると硬さは増加し、摂取量が増えるほど咀嚼回数の影響は大きくなった。ゼラチンゲルでは、5回、10回咀嚼の硬さと30回、50回咀嚼の硬さがそれぞれ似た傾向を示し、近い値となった。官能評価では、寒天ゲルとゼラチンゲルともに、摂取量が少なくなり、咀嚼回数が増えるに従い飲み込みやすいと評価された。寒天ゲルの最大速度について高い値を示したのは、5回咀嚼の9g、12gにおいてであり、ゼラチンゲルの最大速度で高い値を示したのは、50回咀嚼の3g、6gであった。これらの結果は、寒天ゲルでは主に咀嚼によって破砕された食片の大きさと量が影響しており、ゼラチンゲルでは咀嚼後の融解の程度が主たる原因であると推察された。
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