研究概要 |
牛のβ-ラクトグロブリンには7種類の遺伝的変異体があることが知られており個々の化学的・物理的性質を解明することは本タンパク質の利用のための基礎研究として重要である。本年度はβ-ラクトグロブリンA typeとB typeおよびそれらの混合タンパク質系を用いてこれらのタンパク質系に及ぼすL-システイン添加の影響を調べた。示差走査熱量分析、動的粘弾性測定および超音波分光分析により多面的に調べたところβ-ラクトグロブリンのタイプの別によらずいずれの場合でもL-システイン添加によりタンパク質の熱安定性が低下し変性しやすくなることが判った。更に示差走査熱量分析によりA typeとB type間では顕著にその挙動に差が見られた。すなわちA typeはB typeに比べ、より低い転移開始温度を示した。またA type+B typeの混合系における熱分析の挙動はB typeに類似していることが判った。超音波分光分析でもA typeとB type間で共通してL-システイン添加により、β-ラクトグロブリンのもともとの変性温度(約80℃)よりも20℃程度低い温度から次第に超音波減衰(Attenuation)が増大したが、A typeの方がその開始温度が8℃程度低いことがわかった。以上の事から、A typeはB typeに比べて本来熱感受性が高いが、B typeとの混合により熱に対する安定性が増加する事がわかった。また、動的粘弾性測定では示差走査熱量分析と同様の傾向が観察されA typeとB typeではBtypeのほうがややゾル・ゲル転移温度は高かったが最終的に得られた粘弾性体の弾性率はA,B間でほとんど差が認められなかった。 引き続き20年度には他種タンパク質(例えば大豆ホエー等)を用いてシステイン等の低分子化合物添加によるゲル形成のリアルタイム解析を行う予定である。
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