研究概要 |
老年期の食生活を考える上で食物繊維の果たす役割を生理学的に解明しようと考え、19年度から3年間かけて研究を行ってきた。初年度は食物繊維がもつ腸内細菌叢の変化を検討し、生化学的な検証が得られたので、その翌年には肝臓の遺伝子の発現変化をDNAマイクロアレイによる網羅的な解析を行なった。 最終年度の21年度は内分泌に関する検討を行った。40週令の雄ラット14匹を二群に分け、2%食物繊維、10%食物繊維で1週間飼育した。ネンブタール麻酔をかけ頸動脈から採血した血液は一晩4℃で静置後、遠心分離して上清を血清とした。測定した内分泌物質はACE,ACTH,C3a アディポネクチン,アンジオテンシン,コーチソール,ガラニン,成長ホルモン,GF-1インスリン,レプチン,LH,PAI-1,プロゲステロン,プロラクチン、 セクレチン,テストステロン、無機質としてCa,Mg,血糖値、脂質として、コレステロール、中性脂肪ともカイロミクロン,VLDL,LDL、HDLであった。 その結果、血糖値については10%群の血糖が低い結果になり、従来言われている食物繊維が物理的に糖を吸着する事により、血糖の上昇を遅らせるという事が裏づけられた。また、過剰な食物繊維量により、無機質の吸収阻害が起こるということが報告されているが、10%食物繊維群の血清のCa,Mgの濃度の値は2%食物繊維群との変化が見られず、今回の実験計画の食物繊維量が過剰すぎる量ではない事が証明された。脂質では10%食物繊維群でコレステロールの値が全体的に低い値である事が認められたが有意差は得られなかった。内分泌では特にPAI-1 (plasminogen activator inhibitor 1)に有意差が見られた。PAI-1は脂肪組織から分泌され、悪玉として認識されているが、アディポネクチンに比べ研究が盛んに行なわれていない。PAI-1は平常値の4-5倍になると心筋梗塞などの危険が高まると言われている。今回10%食物繊維群は2%食物繊維群に比べいわゆる疾病を起こすような高い値ではなく1.16倍という低値であったが、0.01%の危険率で有意差が認められ、食物繊維の摂取量と血中PAI-1濃度に相関関係があると考えられた。このことからさらに食物繊維とPAI-1についての因果関係についてin vivo、 in vitro両方からの詳細な研究がされる必要があると考えられる。
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