ヘム鉄は、ヘムオキシゲナーゼ(HO)により分解されて、抗酸化物質ビリルビンや血管調節物質COなどを生じる。HOの誘導性アイソザイムであるHO-1は、酸化的ストレスなど種々の刺激で誘導される生体防御タンパク質であるとともに、ヘム鉄代謝系は鉄代謝系とも密接に関連している。HOの発現を調節するイソフラボン、ポリアミン、ヘム鉄などの食品成分や、HO阻害物質である金属ポルフィリン誘導体、鉄や鉄キレート剤などの鉄代謝を調節する物質などによって、ヘム代謝系を修飾することにより、疾患の治療や予防への応用可能性を検討した。抗原虫作用の評価として、ヒト回盲腺癌由来のHCT-8細胞にクリプトスポリジウム原虫を感染させ、これらの化合物が感染原虫の増殖を抑制するかどうかを調べた。 その結果、鉄キレート剤であるデフェロキサミン、鉄塩、ヘム(鉄)、HO阻害剤であるスズポルフィリン化合物が、明らかに感染原虫の増殖を抑制した(小川ら、原虫感染症の治療又は予防薬.特願2008-175517)。クリプトスポリジウム感染症は、激しい下痢を引き起こす疾患で、先進国でもかなりの罹患者数が報告されている。著効を示す治療薬が存在しないため、免疫不全患者では治療が困難で、死亡する例も少なくない。従って、今回発見した鉄代謝やヘム鉄代謝を調節する化合物(群)の抗クリプトスポリジウム活性は、クリプトスポリジウム感染症治療薬・予防薬としての応用が期待される。また今回得た知見は、ヘム代謝や鉄代謝を軸とするヒトと病原微生物の相互作用についての基礎医学・基礎薬学・食品科学研究における新たな視点を提供する成果である。
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