最近、糖尿病とがん発症との間に有意な相関関係があることが報告されている。糖尿病が発症すると、生体内で還元糖とアミノ酸との反応であるメイラード反応が進行し、食品中の変異・発がん物質であるアクリルアミド(AA)はメイラード反応を経て生成する。また、AAは生体内における薬物代謝酵素によりグリシダミドに変化し、遺伝毒性が増強する。糖尿病が発症した場合、薬物代謝酵素活性が増強することから、これら変異原物質の毒性が増強することが示唆される。本研究では、アクリルアミドの生体内における生成及び遺伝毒性の変動を明らかにするため、(1)生理的条件下におけるAAの生成、(2)糖尿病マウス生体内におけるAAの毒性変動を検討した。グルコース、アスパラギン混合液及びグルコース、アスパラギン混合液を、生理的条件下(pH7.4、37℃)で100及び1000日間反応させた後、その反応液中のAAを抽出し、LC/MS/MS法を用いて定量した。また、I型糖尿病モデルマウスにAAを経口投与した後、肝臓及び血液を採取し、遺伝毒性試験(コメットアッセイ、小核試験)を行った。 生理的条件下で反応させたメイラード反応液でAAの生成が確認され、その量はグルコース含量が多いほど高値を示した。また、1000日目の反応液ではAA量の減少が見られた。糖尿病マウスにAAを投与して、その遺伝毒性の変動を検定したところ、糖尿病誘発マウスのAA投与群では、対照群と比べ有意にDNA損傷性及び染色体異常誘発能が増強することを確認した。 本研究結果より、(1)AAが生理的条件下で生成すること、(2)糖尿病状態における薬物代謝酵素活性の増強による、AAの毒性が増強することが明らかになった。
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