リポ蛋白質受容体ファミリー遺伝子はコレステロール代謝のみならず、肥満、高脂質血症、糖尿病、骨粗鬆症などのメタボリック症候群の発症に大きく関与している。特に、LRP5はWnt/β-cateninシグナル伝達経路の重要なメタボリックセンサーとして機能し、糖代謝、骨代謝に関与する。従って、リポ蛋白質受容体の機能発現に関する詳細な分子機構を明らかにし、その機能発現を調節する食品因子を同定できればメタボリック症候群を抑制できると期待できる。私たちは、複数の食品因子がリポ蛋白質受容体の機能発現を調節することを明らかにすると同時に新規のリポ蛋白質受容体を発見しLRP10と命名した。LRP10は他のリポ蛋白質受容体と同様に特徴的な5つの機能ドメインを有し、脳で発現が高く、出産直後から出産20日目にかけて発現量が増加すること、大脳皮質では神経前駆細胞が存在する脳室帯に存在することを明らかにした。これらの結果に基づき、LRP10は、脳神経系の発達と遊走に関与していると推論した。また、LRP10がWnt/β-cateninシグナル伝達経路の下流に位置するT細胞因子(TCF)の転写活性を阻害することを見出した。LRP10によるTCF転写活性の抑制には、LRP10遺伝子のリガンド結合ドメインやEGF前駆体相同ドメインの構造が必須であった。特に、LRP10は、核内でのβ-cateninとTCFの複合体形成を阻害する、あるいはTCFと標的遺伝子の結合を阻害することによってTCF転写活性を抑制することを明らかにした。これらの実験結果は、LRP10がWnt/β-cateninシグナル伝達経路を介する糖代謝、骨代謝のフィードバック機構として作用することを示す。今後、LRP10を含むリポ蛋白質受容体ファミリー遺伝子の機能発現を調節する食品因子の作用機構を明らかにすることはメタボリック症候群を抑制できる鍵となると期待できる。
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