研究概要 |
微量栄養素のひとつである亜鉛は肝臓内でアルコール脱水素酵素,SOD,コラゲナーゼ等の活性に関与しインスリンの働きを発揮させることなど知られている。NASHでの亜鉛欠乏の影響を検討する目的で,前年度に続き肝星細胞(Hepatic Stellate Ce11 : HSC)を用いて行った。ヒト株化HSC(LI90細胞)とラットより分離したHSCにおいて亜鉛キレート剤と硫酸亜鉛を添加して培養し、培養液中のコラーゲン量の測定、ゼラチンザイモグラフィーを用いたMatrix Metalloproteinaseの検討、および遺伝子発現レベルの解析を行った。ジメチルニトロサミン誘発実験的肝線維化モデルラットを低亜鉛飼料と高亜鉛飼料にて飼育し、肝組織のAzan染色により評価した。LI90細胞から培養液中に分泌されるコラーゲン量は亜鉛キレート剤の添加による影響は受けなかった。一方、分離HSCにDTPAを添加するとMMP-9の活性化が確認されたが、亜鉛を同時に添加すると減少した。また、MMP-9の活性化に伴い細胞遊走性の顕著な上昇が確認された。肝線維化ラットにおいてALT値は低亜鉛食群と比較し、高亜鉛食群で有意な低下がみられたが、線維化に組織学・的な差はなく高亜鉛食の明らかな効果は認められなかった。以上よりHSCでは亜鉛キレート剤存在下で活性型MMP-9の出現が観察されたことから、亜鉛濃度がECM分解系に影響を及ぼすことが示唆された。MMP-9は基底膜のIV型コラーゲンを主な基質として働き、炎症時におけるECMリモデリング、細胞浸潤などにも関与するとされることから、亜鉛欠乏状態が肝線維化においてHSCによる基底膜コラーゲンの分解や遊走性を高めることで障害部位への移動及び分散を引き起こす可能性が示唆された。しかしin vivoでは亜鉛の補給効果については明らかな結果は観察されず、今後さらに十分な検討が望まれた。
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