職人の技能は、身体の外に用意する道具や環境の中に知識や情報として配置されており、多くの工夫や知恵を作業環境の中から学び取ることができる。本研究では、これを「外在主義的な知識観」と称して、これに基づいて技能継承の方法を提案した。目指したものは、わが国の伝統工芸モノ作りにおける効果的な継承・教育方法の刷新である。そのために、まずは海外を含めた事例調査による技能の抽出と知識の分かりやすい可視化、それを共有できる作業環境・教育環境の綿密な調査を行ってきた。 本年度は、研究の最終年度であるため、昨年度までの調査を精査し纏めることと、効果的な展示に関する追加調査(竹中道具館など)を実施し、知識の可視化という点から整理しなおした。また、知識・技能の可視化を進め、教育の作業環境の中に分かりやすく配置することを実践した。さらに、配置した知識・技能(ジグや模型)を実際に利用、学生等のアンケートや聞き取り、行動観察によりその有効性を確認した。加えて、本研究により収集したさまざまな形(具体物、写真、雑誌、スライド、フィルムなど)の情報とそれまでに収集されてきた情報を、同一のデジタル情報の形式にまとめ上げる作業を実施した。これにより多くの研究者と情報を共有することが期待できる。 本研究の成果としては、21年度紀要に掲載したほか、22年度に学会等で発表する準備が整っている。また、21年度には、技能継承について講演を行い、多様なモノづくり企業との意見交換をする機会を得、本研究の有効性を確認することができた。さらに、本研究を進める中で、さまざまに残された「痕跡」とそれがもつ「情報」、「提示」の在り方を基にした技能継承モデルをつくる必要性が再認識された。本研究により、今後研究を展開するうえで、徹底した技能者への継続的な観察とデータを基にした科学的な検証の方向性と、実践的な手法や教育プログラムを研究する基盤を作ることができた。
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