研究概要 |
日本の伝統工芸技能の師弟相伝による伝承方式を,現代的な諸工業承に生かすための方策について研究することを目的とする。そこで,伝統工芸技能を生かした製造業であるヤマハ楽器製造(木工技能等を生かしたピアノ製造),アイパルス(キサゲ技能を導入したチップマウント製造),福田金属工業(金箔技能を応用した金属粉の製造),白鳳堂(和筆技能を応用した化粧筆製造)での技能伝承の実態を取材調査した。その結果,これらの企業に共通する技能伝承の特徴は次のようである。 (1)伝統技能を中心となって担う熟練技能職人が存在し,一対一方式,もしくは一種の私塾方式で,勤務外に手仕事的に技能伝承がなされている。 (2)熟練技能の完全な機械化を目指すが,機械化されにくい人間のわざに頼る部分(コツとカン)が残る。 (3)伝統技能の単なる伝承ではなく,新たな企業プロジェクトを企画する中の必要な知識と技術の一環として伝統技能を取り込むことが重要である(金属粉,化粧筆製造)。 (4)技能の伝承過程で生じる様々な問題を企業内で共有化する必要を認めているが,具体化はされていない。 さらに,技能五輪静岡大会での金メダリストを出したトヨタ自動車とデンソーの人材開発責任者,金メダリスト,指導に当たる技能コーチに取材調査した。その結果,次のような点が明らかにされた。 (1)技能五輪という機会を利用して技能の伝承のために若手技能者を育成するという明瞭な企業目標がある。 (2)技能五輪で金メダルをとるためのノウハウが蓄積されている。 (3)企業内の技能高校あるいは短期大学校の生徒から技能五輪選手を選抜し,いわば英才教育を実施している。 (4)選抜した選手に必要な資質は,器用であるといった能力ではなく,コーチの言うことが聴ける,素直で根気よく努力する性質をもつものである。
|