本研究では音声認識方式により教員の音声をリアルタイムに字幕に変換し、聴覚障害学生に提示する講義保障システムの実現を目的としている。平成21年度の研究成果の概要を以下に述べる。 【1】 インターネットを利用した講義保障の補完システム 聴覚障害学生への情報保障をより充実させるため音声認識によるリアルタイム字幕講義システムで実現した字幕精度93%の字幕データに加えて、残り7%の情報保障を講義終了後に字幕データとしてインターネット経由で大学のサーバーから提供する講義補完システムを構築した。これは音声認識方式で完全には避けられない誤認識を補完する役割と講義後に学生の復習を支援する役割を果たすもので聴覚障害学生に対する情報保障を充実させることができた。 【2】 音声認識データからの手話アニメーション生成 聴覚障害者からは字幕のほかに手話映像による情報保障の要求があり、文字入力データをもとに手話アニメーション映像の生成・表示が可能なシステムを構築した。今回、日常会話表現レベルでは手話アニメーション映像の生成で情報保障ができることを実証できたが、大学の講義には専門用語や高度で難解な表現が多く、現状の手話アニメーション映像の生成ソフトで登録されている手話単語では不足するほか、手話の表現方法が統一されていないことによる課題も明らかとなった。このため字幕による情報保障の補完的な利用やホームページでの情報保障に応用した。 【3】 講義保障システムの実証実験と聴覚障害学生による授業評価 本研究で実現した音声認識によるリアルタイム字幕講義システムと代表的な情報保障方式であるパソコン要約筆記方式による字幕生成の比較実験を大学の講義を対象に実施し聴覚障害学生の授業評価を受けた。90分間の授業を教員1名と字幕修正者2名で音声認識する一方、パソコン要約筆記の専門家2名と聴覚障害学生2名が実験に参加した。その結果、字幕精度は音声認識方式が93%に対し、要約筆記方式は99%、字幕表示時間は同程度であった。一方、音声認識方式は教員の音声を96%忠実に字幕化しているが要約筆記方式の字幕化率は74%であり、聴覚障害者に提供する情報量に大きな差があることが分かった。授業評価によれば、音声認識方式の優れたリアルタイム性や情報量の多さを重視するか、要約筆記方式の高い字墓精度を重視するかで聴覚障害学生の評価が分かれた。
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