研究概要 |
本研究の目的は,19世紀イギリスにおける衛生政策の解明をめざすものである。これに取り組むについて,とくにドイツの有機化学者ユストゥス・リービッヒから英国に対してなされた政策提言に注目している。 本年は,衛生政策の前提となるリービッヒとイギリスの関係を明らかにする作業に取り組んだ。科研費補助金によって,2度渡英して多くの資料収集ができた点,とくに大作油彩については,その展示場所を実際訪問できたということは,その絵画にまつわる謎を解く上で,大きな収穫となった。 リービッヒは屎尿をテムズ河に投棄する愚をいましめ,屎尿を農業生産の上で十分に活用すべきことを提案する。その活用の素地は,イングランドにおける農業の科学化にかかっていて,リービッヒはこのシンボル的人物とみなされていた。 このような経緯から,まずはイギリスにおけるリービッヒと王立農学協会とのつながりを洗い出し,同協会の1842年のブリストル大会の様子を描いたとされる,大作油絵にまつわる謎解きを進めながら,リービッヒの影響や活躍の様子を明らかにした。これについては論文「創ちれた絵画:リービッヒとイングランド王立農学協会」としてまとめることができた。論文発表後から,さらに多くの新事実を得ることができたので,英語での大幅な改訂版を用意して,査読をクリアし現在掲載まちである。
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