研究概要 |
(1)北海道における黒曜石の化学組成スタンダードの確立:黒曜石ガラスの化学組成差が明瞭に表れるダイアグラムとしてTiO_2/K_2O比とCaO/Al_2O_3比の関係図を採用した。北海道では14地域で20の組成グループが識別された。1地域で2つの組成グループ(IとII)に分かれるのは,旭川・留辺蘂・十勝・置戸・白滝・生田原である。黒曜石組成グループの値が重なる場合(遠軽と奥尻,赤井川と紋別,滝川と生田原I,旭川Iと留辺蘂I)は,FeO^*/MgO比を縦軸にとった図やNa_2O/K_2O比,SiO_2量,Cl量など他の元素組成を比較することで互いに区別できる。黒曜石ガラスの主成分化学組成がわかれば,その黒曜石が北海道のどの産地(組成グループ)に由来するのかが明確に推定できる。この結果については日本文化材科学会で報告した。 (2)遺跡出土黒曜石石器試料の原産地同定:旭川の7遺跡から黒曜石石器試料をそれぞれ50点分析した。その結果,旧石器時代には白滝・置戸・十勝産黒曜石が使われていたこと,縄文時代前半期からは地元の旭川産(原産地は不明)を自然採取していたこと,縄文時代後半期には白滝産の使用割合がさらに増加したことがわかった。 (3)白滝産黒曜石の地質と化学組成:地質調査の結果,考古学的に重要な白滝黒曜石は,幌加湧別カルデラ内での無斑晶質流紋岩マグマの活動によって生成したものである。それらは層序的に,下位より十勝石沢溶岩・赤石山下部溶岩,赤石山上部溶岩,赤石山山頂部溶岩の3つのユニットに分けられ,黒曜石ガラスの化学組成も明瞭に区別できることがわかった。赤石山上部溶岩のデータ数を増やす必要があるが,白滝産黒曜石は化学組成的にも新しく分類できると考えられる。
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