研究概要 |
我々はこれまでに、製塩土器の化学的同定方法として海水中に微量溶けているステロール類が、土器で海水を繰り返し加熱濃縮して塩を結晶化する製塩過程で土器のマトリックスに保持され、製塩のマーカーになりうる事を、実際に製塩を行った実験製塩土器を使って明らかにしてきた。 製塩土器の同定には塩の存在が指標になる。しかし塩(主成分は塩化ナトリウム)は水によく溶ける為、これまで土器に残留しないと考えられてきた。本年度は土器が持つイオン交換能に着目し、塩由来の塩化物イオンが製塩土器内に保持される可能性を、実験製塩土器を使って検討した。土器片から、まず雨や地下水などに溶け出す可能性のある塩化物イオンを予め蒸留水中で超音波抽出し除去した後、土器を粉砕して表面積を大きくし、蒸留水で除去可能な塩化物イオンを検出できなくなるまで再度超音波抽出して除去した。次に土器胎土の主成分であるシリケートと親和性の高いフッ化物溶液で再度超音波抽出すると、新たに塩化物イオンが検出できることがわかった。つまり、自然界で雨や地下水などにより土器から流出あるいは土器に侵入した塩化物イオンを蒸留水に溶け出した塩化物イオンとすると、その他により強く土器内部に保持され、水だけでは容易に溶け出さない塩化物イオンが残留すること、その塩化物イオンはフッ化物溶液を用いれば回収できることが明らかになったわけである。塩化物イオンの検出には塩化物イオン電極(検出範囲:1-35000mg/LCI-)を用いた。塩化物イオン電極は安価で誰でも簡単に扱う事ができる。従って、これまでに報告されている製塩土器の科学分析に用いられた、高価で扱いに技術を必要とし、しかも感度が%単位のエネルギー分散型走査電子顕微鏡(1)よりはるかに優れた分析方法であると言えよう。 (1)R.Flad,J.Zhu,C.Wang,P.Chen,L.von Flakenhausen,Z.Sun,S.Li,Archaeological and chemical evidence for early salt production in China,Proc.Natl.Acad.Sci.,102,12618-12622,2005
|