研究概要 |
これまでに確立された塩化物イオン分析の手法を使って広島県安芸郡蒲刈町沖浦遺跡出土土器の塩化物イオン分析を行った。試料は考古学者が分類した4から6世紀にかけての1.製塩土器、2.非製塩土器、3.未使用の製塩土器、を使用した。 その結果、水に流出せず強く土器胎土に保持された塩化物イオンが遺跡出土土器からも検出され、本手法が古代土器に適応できる事が明らかになった。回収された総塩化物イオン量の平均値は製塩土器で0.581±0.291mgCl^-g^<-1>pottery(最高値:1.487±0.011mgCl^-g^<-1>pottery、最低値:0.061±0.008mgCl^-g^<-1>pottery、n=11)、非製塩土器で0.040±0.034mgCl^-g^<-1>pottery(最高値:0.118±0.020mgCl^-g^<-1>pottery、最低値:検出限界(0.02mgCl^-g^<-1>pottery)以下,n=8)、未使用製塩土器は0.025±0.010mgCl^-g^<-1>pottery(最高値:0.054mgCl^-g^<-1>pottery、最低値:検出限界以下,n=4)であった。平均値を比較すると、製塩土器と非製塩土器との間に優位差(P<0.001)があり、強く保持された総塩化物イオン量を測定する事で製塩土器を他の土器と識別することができることが明らかになった。しかし、製塩土器の最低値は非製塩土器の最高値より低く、標準偏差値から逸脱する塩化物イオン量の場合、製塩とその他の土器の明確な線引きをすることが難しいことがわかった。従って、本手法の可能性と限界を明らかにするためには、日本の他の製塩遺跡のみならず、土器胎土の組成も製塩手法も異なる世界の製塩遺跡出土土器を分析する必要があると考えている。 なを、実験製塩土器から検出され、製塩のバイオマーカーになると考えていたステロール類は分析に必要な十分量が検出できず、回収量の最適化が今後の課題となった。
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