古代中国の辰砂産地である陳西省と雲南省を訪問し、辰砂鉱石を得てこれを分析した。その結果、弥生時代後期の日本海沿岸の遺跡朱は従来考えていた中国貴州省産辰砂ではなく、陳西省産辰砂の可能性が大であることが判明した。さらに、遺跡および辰砂鉱石の鉛同位体分析方法を開発した。朱(硫化水銀)はその生成時に他の金属を巻き込むことは少なく、陳西省産辰砂に含まれる鉛量も微量であった。しかし、陳西省産、貴州省産、丹生鉱山産、大和水銀鉱山産鉛同位体に明らかな違いが認められた。さらに、遺跡出土朱の鉛同位体分析も可能であったが一緒に出土した青銅器由来と考えられる鉛同位体値が観察された。遺跡より朱をサンプリングするときはコンタミがない状態でサンプリングしなければならないが、作業現場で実際にサンプリングをおこなうものにその心構えがないことが多く、難しい問題である。以上より、本研究成果として中国陳西省産辰砂が弥生後期に日本海沿岸にもたらされた可能性がイオウ同位体比分析の結果から推察された。また、鉛同位体分析も測定できるシステムを構築したが、イオウ同位体比分析に比べて細心な注意が遺跡朱のサンプリングに必要である。
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