研究課題/領域番号 |
19500872
|
研究機関 | 独立行政法人文化財研究所東京文化財研究所 |
研究代表者 |
北野 信彦 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター・伝統技術研究室, 室長 (90167370)
|
研究分担者 |
窪寺 茂 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 文化遺産部・建造物研究室, 室長 (00393372)
|
キーワード | 外観塗装材料 / 赤色顔料 / パイプ状ベンカラ / 木造建造物部材 / 元興寺五重小塔 / 浄瑠璃寺本堂 / 蓮華王院三十三間堂 / 創建期塗装 |
研究概要 |
部材の表面保護や装飾のために施されていた建築文化財の外観塗装材料は、常に紫外線や風雨の劣化に晒されるため、修復作業時に従来の塗装材料をある程度除去してから新たに塗り替え作業する場合が多く、その修復記録もほとんど現存しない。ところが、それぞれの建造物に使用された外観塗装材料の色調は、それぞれの建造物自体のイメージを大きく左右するため大切である。しかし、「外観塗装材料の歴史的変遷や創建当時の色調、さらには当時の顔料などの塗装材料を復元製作するとともに、耐候性があり、かつ安定した塗料である新素材とを併せて、実務に応用しうる新材料としての新塗料開発のための実践的研究」はほとんどみられない。本研究ではこの点に注目した基礎研究を行うが、平成19年度はこの初年度として、天然赤鉄鉱起源の赤土ベンガラや、鉄バクテリアを原材料とするパイプ状ベンガラの製法と性状に関する基礎研究を行い、それぞれ査読有の学会誌にその成果を公表した。次、に調査する機会に恵まれた(1)元興寺極楽坊、(2)元興寺五重小塔、(3)海龍王寺五重小塔、(4)浄瑠璃寺本堂、(5)蓮華王院三十三間堂、(6)海住山寺、(7)興福寺、(8)石山寺などの建築文化財の部材に塗装された主に赤色顔料の変遷に関する調査を実施した。 調査の結果、まず元興寺五重小塔取り外し部材では、創建期塗装はパイプ状ベンガラ、中世期は赤土ベンガラ、近世期は鉛丹+ベンガラ、近代は人造ベンガラへと、外観塗装材料は明確に変遷した点が確認された。 一方、海龍王寺五重小塔・海住山寺三重塔は、創建期塗装には朱顔料が確認され一般的にはベンガラ顔料による塗装が多い建築文化財のなかでは工芸的性格が強い点が示唆された。なお、浄瑠璃寺本堂の外観塗装および蓮華王院三十三問堂内部外陣背面は、現状では外観塗装はされていない古木の木肌の色調であるために、塗装が施されていないと認識されていたが、今回新にこれらを精査した結果、それぞれ明治期修理の新補部材は古色塗が観察されたものの、それぞれ創建期には赤土ベンガラが塗装されていた点が観察された。以上のように、本研究で採用した調査方法は、建造物の外観塗装材料の変遷を知る上で有効であると考える。
|