建造物は常に白木のままであったわけではなく、多くの場合は部材の表面保護や装飾のために何らかの外観塗装が施されていた。しかし建築文化財の外観塗装材料は、常に紫外線や雨風の劣化にさらされるため、建物の保存修復作業時に従来の塗装材料をある程度除去してから新たに塗り替え作業を行う場合が多く、その修復記録もほとんど現存しない。そのため、現存の建築文化財では創建当初の状況やその後の修復履歴を確認することはきわめて困難である。ところが、それぞれの建造物に使用された外観塗装材料の色調は、それぞれの建造物自体のイメージを大きく左右するため大切である。しかし「外観塗装材料の歴史的変遷や創建当初の色調、さらには当時の顔料などの塗装材料を復元製作するとともに、耐候性があり、かつ安定した塗料である新素材とを併せて、実用に応用しうる材料としての新塗料開発のための実践的研究」はほとんど見られない。本年度は、4年計画の第3年目として昨年度に引き続き、いくつかの個々の建造物(建築文化財)の外観塗装および彩色材料の性質や色相、年代的塗装材料の変遷などに関する基礎調査を行うとともに、そのまとめを行うことを主目的とした。特に今年度の赤色塗装顔料の分析結果からは、使用顔料は同じ天然赤鉄鉱である赤土ベンガラであっても、固着材料は漆塗料、乾性油、澱粉糊、膠などさまざまな材質であること、また銀閣寺の外観塗装材料として漆の上に塗装された白色顔料からは白土と明礬が検出された。なお、この中でいくつかの建造物(建築文化財)は、現在、建造物の解体修理作業および塗装塗り直し作業が進行している。そのため、今回新たに得られた知見や成果を踏まえて新たな塗装材料の構築を目指した白色顔料の作成実験や漆塗装手板サンプルの作成作業も並行して行った。
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