平成22年度は、BSE問題によるアメリカ産牛肉の禁輸・制限(2003年~)による価格高騰と国産需要の高まりという市場環境の変化の中で、日本の肉用牛産地が全般的に回復・成長基調にある現実を踏まえて、日本最大の乳用種肥育牛(いわゆる国産牛肉)産地である北海道十勝地方を事例に、その具体的な発展動向について考察した。 その結果、十勝地方では国産牛が和牛ほど価格上昇せず、小規模な農家を中心に徐々に廃業が続いていることが明らかになった。しかし、十勝地方全体の肉用牛頭数には大きな変化がない。これは、3000頭以上もの超大規模の法人経営が過去10年間で増加してきたからである。これらの法人経営は低コストでの育成・肥育が可能で、独自に販売ルートの確保に努めており、1頭当たりの利益は少なくとも、安定的に経営できる基盤が築かれている。また、販売価格は相場に左右されるが、暴落時等には政府の子牛・枝肉に対する価格補填制度があるため、それを念頭に置いたコスト管理が可能となっている点も大きい。 一方、中小規模農家においても、BSE問題以降はトレーサビリティの徹底、非遺伝子組換え飼料の利用、抗生物質の使用制限など安全性に配慮した肉用牛飼養をアピールすることで本州の小売業者と結びつき、再生産可能な価格で取引が長期的に行われている事例も見られた。また、農協は多額の負債を抱えている農家に対して牛肉販売会社との預託飼養を斡旋し、徐々に負債を返済していけるような取り組みも行っている。このように十勝地方では、グローバル化が一層進展する中で経営を多様化させながら、全体として安全性とリーズナブルな価格の牛肉生産を指向することで産地維持が図られていることが明らかになった。
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