研究概要 |
本研究は東アジアの湖沼・干潟の環境問題とその問題状況下での資源管理システムに関する調査を行うことを目的にしている。平成21年度は,中国太湖の富栄養化問題とそれへの対応に関して現地調査を行うとともに,3カ年の調査結果を総括した。 上海に近い無錫市は経済成長スピードの速い中国の中でも特に著しい成長を遂げている地域であるが,その成長の負の影響を深刻に受けているのが太湖である。流域内の工場の急増,人口増加と生活様式の変化などにより,富栄養化深刻化している。2007年には藍藻類(アオコ)が大発生し,大規模な利水障害が生じ,世界的な注目を集めた。その後,無錫市は,浙江省や中央政府の強力なバックアップのもとで,富栄養化対策を急速に進めている。その対応として,日本では例をみない規模で流域内中小工場の閉鎖や水産養殖,畜産業者の廃業なども行っている。そして,環境の改善が新たな都市開発を促すことにつながっている(一種のジェントリフィケーションともいえる)点が日本ではあまりない展開である。 本研究では3カ年かけて,日韓中越各国の水環境問題の現場を限られた事例であるが調査を行った。その結果,湖沼や干潟の環境保全や資源利用において,市民からの要望や市民による活動が影響力(管理や利用のあり方を決める際の市民運動の影響力)の有無(日韓と中越の差)が施策化速度の違いとして現れること,環境対策と都市開発・地域開発との結びつきの強弱(それが連動する中国と,環境対策が環境対策として行われる日本,その中間に位置する韓国)が環境対策をとる行政の姿勢を左右することなどが,比較の際に重要な視点になることがわかった。
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