研究概要 |
1.ゾーニングのための基礎調査:上高地の河童橋から横尾までの歩道沿いの地形・地質露頭・河川・池沼・植生・人工物などのマッピングをおこない,その自然度の評価をおこなった。明神の3地点で通行量(歩行者数)調査と利用者のタイプを調べた。それに加えて利用者からの聞き取り調査をおこなった。 2.地形自然度の評価調査:継続観察を行っている明神-徳沢間の梓川河床において簡易測量を行い,微地形と植生の分布を1:1,000縮尺で地図化した。氾濫原において先駆樹種の定着年代を年輪解析から求めた。その結果,およそ100年前の河道の大規模移動後,15〜20年程度は河道跡に土砂が流入し続けたが,その後は氾濫原内にある小さな溝を通って土砂が流入し,溝周辺に氾濫したことが明らかになった。 3.植生自然度の評価調査:上高地梓川の河畔林の変遷を長期観察するため,1994年に徳沢-明神間の左岸河畔林に,ベルトトランゼクトを設置し,1994年に生育するすべての木本個体の樹高,胸高直径を測定し,位置を記録した,2007年に同様の調査を行い,13年間の変化を解析した。1994年には亜高木であったハルニレが高木層にまで成長し,ケショウヤナギードロノキ林がハルニレ林に遷移している場所が広い範囲で認められた。洪水によって攪乱された林床で密度の高かったヤチダモの低木は,個体数を減少させていたものの,生残していた多くの個体の成長は良好で,今後上層まで成長してヤチダモ優占群落を形成する可能性があることが示唆された。以上のように,上高地梓川の河畔林の遷移を,実際の林分における追跡調査によって実証的に確かめることができた。
|