研究概要 |
1.ゾーニングのための基礎調査:上高地の河童橋から横尾までの歩道沿いの地形・地質露頭・河川・池沼・植生・人工物などのマッピングをおこない,その自然度の評価をおこなった.上高地駐車場・ビジターセンター周辺で利用者約300名からの聞き取り調査をおこなった.その結果,利用者の動態が明らかになり,ゾーニングのための基礎資料となった. 2.地形自然度の評価調査:さまざまな時空間スケールで生じる梓川の洪水・氾濫現象について,100年~10年スケールの氾濫史,河道内での地形変化を引き起こす降雨現象の規模,氾濫が引き起こす自然への影響について調査・解析を引き続きおこなった.その結果,10年~20年間隔で大規模な氾濫が生じて氾濫原の地形,植物に影響をおよぼすこと,河道内の地形変化を引き起こすのは上高地において6月~7月下旬に日雨量120mmを超える降雨であること,氾濫原への土砂と水の流入がさまざまな空間スケールの氾濫原の地形,植物多様性をつくり出していることが確実になった.ほかに重力地形の調査もおこなった. 3.下宮川谷沖積錐は1998年に発生した土石流の沖積錐上に新たに侵入した稚樹の11年間の成長を追跡した結果,林床の相対照度の高低によって侵入した樹種に大きな違いがあり,最も明るい場所ではサワグルミの稚樹が優占し,約3mまで成長した.林冠ギャップの多くはウラジロモミの枯死によって形成された.破壊作用の比較的弱い土石流が発生した場所では,ウラジロモミからサワグルミなどの広葉樹へ遷移していくと考えられた.しかし,土石流の破壊作用がさらに強かった場合には多くの樹種が倒伏することも想定され,その時の林床植生の回復過程は,陽樹的な性格の強い樹種(タニガワハンノキなど)や,多様な立地に対応した多様な樹種の侵入の可能性も高く,今回調査した場所とは異なることが予想された.
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