親潮域での高い生物生産および二酸化炭素吸収力の基盤は、植物プランクトンによる基礎生産(光合成)であり、その中でも毎年春季に大増殖(ブルーム)する珪藻類が特に重要な役割を果たしている。しかしながら、親潮域の春季珪藻ブルームの基礎生産過程に関する情報は極めて限られ、ブルームの盛衰を支配する因子に関しても十分な理解が得られていなかった。このため、春季親潮珪藻ブルームに注目した海洋観測において、ブルーム発達期から衰退期にかけての基礎生産に関わるデータを取得し、親潮珪藻ブルーム期の基礎生産特性およびそれを支配する外的要因(光、水温、栄養塩)の効果を定量的に明らかにした。その主要成果として、ブルーム形成珪藻種は極めて高い光利用効率を持つこと、そして、比較的多量の鉄を含むと考えられる沿岸親潮水がブルームを形成する植物プランクトンの光合成活性を大きく刺激することを発見した。さらに、衛星リモートセンシングにより春季親潮珪藻ブルームの基礎生産を評価する場合、植物プランクトンの光吸収係数を基礎生産推定アルゴリズムに導入することにより、従来法に比べ、より正確な見積りが出来ることがわかった。また、大型珪藻類の光合成タンパク質の組成の変化により、ブルーム期間中においても大型珪藻種が鉄欠乏ストレスを受けていたことが明らかとなった。春季親潮ブルームを形成する代表的な中心目珪藻種を用いた室内培養実験を行うことにより、親潮産珪藻種の光合成特性に対する水温、光および鉄との関係を定量的に明らかにした。また、室内培養実験において、親潮産珪藻株の光合成による酸素発生速度/粒子態有機炭素固定速度の比が照度とともに増加したことから、高照度環境下では溶存態有機物が多量に生成されることが示唆された。
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