大気中に浮遊している微粒子は、エアロゾルと呼ばれ、健康影響、気候影響などの評価が進められている。エアロゾルには自然起源・人為起源のさまざまな成分が含まれているが、発生源が多様であること、降水などにより大気中から除去されること、などの理由によりその濃度は空間的に分布しており、ある地点のエアロゾル量は、気象条件により大きく時間変化している。したがって、エアロゾルの研究を進めるためには、各地で連続観測(モニタリング)を行なうことが不可欠である。本研究では、エアロゾルの光学的吸収係数測定を屋内・都市内・地球規模において高精度で行なうことによりエアロゾルの空間的分布を明らかにし、リアルタイムで公開することを可能にするシステムの構築を目的とした。 2009(平成21)年度は、これまでに行なった計測システムの構築により完成した5台の測定システムを札幌市内に配置し長期連続で大気エアロゾルの吸収係数測定をおこなった。札幌市内の中心部および周辺部での吸収係数を連続測定より以下のような知見を得た。 (1)札幌市内各地のエアロゾル光学的吸収係数は、ベースラインが類似しているものの、自動車交通量が多い地点では排気ガスの影響を受けやすいこと。つまり市内の発生源で吸収係数に大きく寄与する成分は自動車由来のものであること。 (2)ベースラインが高い値を与えた期間の後退流跡線解析結果より、吸収係数の高い気塊は上海付近の中国沿岸部や中国北東部の工業地域、釜山など東アジアの都市部を通過して札幌に到達したことがわかった。これらの地域はブラックカーボン(BC)排出量が多い地域であり、これらの地域で発生した燃焼由来のBCが札幌に影響していることが示唆された。 都市内のエアロゾルの光学的吸収係数の空間分布を得るためには、さらに細かい間隔で測定器を配置することが必要であり、ここで使用したような測定器ではコスト高となることがわかった。このためにはリアルタイムでデータを送るとともに測定点の間を補完するような作業が必要であり、安価なパッシブサンプラーの開発などが必要と考えられた。
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