研究課題
河口域生態系における有機物(主としてデトリタス性有機物)の起源と動態を明らかにするために化合物別安定同位体比を応用する手法の開発を進めた。平成20年度においては、特にデトリタス性有機物に含まれるアミノ酸の分子種別窒素同位体比を測定するために必要となる試料処理方法を検討し、灘定法を確立した。現地調査は平成20年5月と6月に岩手県大槌湾において、また同年6〜7月と12月に沖縄県石垣島・西表島にて実施した。河口域・沿岸海域において懸濁態有機物と代表的な起源生物の試料の収集を実施すると共に、生態系の炭素・窒素循環様式を明らかにするために、溶存無機炭酸並びに硝酸イオンの時系列試料を採集し、炭素・窒素・酸素同位体比分析に供した。またマングローブからの有機炭素流出を評価するために、溶存有機炭素と懸濁態有機炭素濃度の時系列試料を収集した。得られた試料の有機物画分に関するバルク並びに化合物別安定同位体比については測定に時間を要するためまだ完了しておらず、分析中もしくはデータ処理中の段階であるが、沿岸堆積物の窒素同位体比から陸水由来の窒素汚染を評価する可能性に関して後述の論文(Umezawa et al.2008)において検討を加えた。溶存無機炭素の時系列試料については分析を終了した。溶存無機炭素の炭素同位体比を用いてマングローブ生態系からの無機炭素の流出量を定量的に評価する手法を開発し、後述の論文(Miyaima et al.2009)中に報告した。硝酸の窒素・酸素同位体比の時系列試料についても大半の分析が終了している。このデータからは、当初の計画では想定されなかったことであるが、南西諸島における大気降下物(越境汚染)由来の窒素負荷の影響が季節により顕著であることが示された。この事実は近年の南西諸島におけるサンゴ礁生態系の劣化の問題を考察するにあたり重要な示唆をもつものである。
すべて 2009 2008
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Journal of Geophysical Research - Biogeosciences 114
ページ: GO1024, doi:10.1029/2008J GO00861
Journal of Oceanography 64
ページ: 899-909