対流圏大気中には数多くの反応性に富む大気微量成分(反応性微量成分)が存在し、その多くが大気中での光化学反応過程に関与している。近年、対流圏大気中に含酸素揮発性有機化合物(oxygenated volatile organic compounds: OVOC)が観測されるようになり、非メタン炭化水素(NMHC)と比較した場合のOVOCの存在量の多さ、反応性の高さ、またNMHCがOHラジカルとの反応を通じてすばやく大気中でOVOCになることなどから、OVOCの対流圏大気中反応性微量成分としての重要性が認識されるようになってきた。 大気微量成分の動態把握に安定同位体比が有効であることは認識されているが、OVOCについて安定同位体比が計測された例は限られている。これは迅速・簡便かつ高精度な計測法が確立されていないためである。本研究では、マイクロ固層抽出法(SPME)とガスクロマトグラフィー-燃焼-同位体比質量分析法(GC-C-IRMS)を組み合わせた、OVOCの安定炭素同位体比計測技術を開発し、対流圏大気中のOVOCの主要な発生源と考えられているバイオマス燃焼に着目し、それから放出される、特に酢酸・メタノールの炭素同位体的特長付けを行うことを目的としている。19年度は、メタノール(99.5%以上)標準試薬を50mMの水溶液に調整した試料を用いて、SPME-GC-C-IRS法の計測条件を最適化した。結果、4mLの試料を用いて、測定時間60分で炭素同位体比が0.5‰の精度で計測できる測定法を開発した。また、バイオマス燃焼の模擬燃焼装置を作成した。この装置により小規模なバイオマス燃焼(燃材約10g-20g程度)を再現し、発生したガスを全量回収することで均質なバイオマス燃焼ガスを採取することが出来るようになった。また採取したガスのCO_2、 CO、 H_2濃度を計測するGCシステムを立ち上げ、各バイオマス燃焼模擬実験における燃焼の特徴づけ(燃焼効率)が可能となった。今後この装置を用いた燃焼模擬実験を行い、採取ガスの燃焼効率を特徴づけした上で、OVOCの安定同位体比の特徴づけを行う。
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