本年度は昨年度に引き続き南極湖沼の細菌群集構造を網羅的に解析した。 1.淡水湖の湖水試料から菌体を集め、これを鋳型としてPCRにより16SrRNA遺伝子を増幅させた。すべての湖水試料からPCR産物が得られ、各試料のクローンライブラリーを構築した。 2.各クローンライブラリーから24クローンを選び、5'側と3'側の700bpについて塩基配列を決定した。 3.得られた塩基配列をすべてデーターベース検索による解析を行い、それぞれの菌属を決定し、それぞれの池の細菌群集構造を明らかにした。 4.昨年度実施した高濃度塩湖すりばち池と舟底池のうちシーケンス結果が24個に満たない水深については再度クローンを得て、同様に解析を行った。 すりばち池の75m以深の嫌気層では目立った優占属は見られず、多様性に富んだ細菌相を形成していた。一方、舟底池及びすりばち池の上層はPsychroflexus属とRoseobacter属が優占し、単純な細菌相を形成していた。細菌の系統解析からは、両池に共通する細菌は系統的に近縁であり、高塩分が細菌相を決定する要因であることが推定された。DMSO(ジメチルスルフォキシド)呼吸する細菌として舟底池のみからHalomonas属を分離した。Halomonas属と以前に両池から分離したDMSO呼吸細菌であるMarinobacter属は両池ともに優占属ではなかった。しかし、ジメチルスルフォキシドの前駆物質であるジメチルスルフォニオプロミオネートの存在量が少ない水深では、DMSO呼吸細菌が優占しており、負の相関関係が認められた。一方、淡水湖はThiomicrospira sp.が優占する単純な細菌相であった。湖沼の形成要因などによる違いは見られず、淡水によるもであると考えられた。 平成21年度は最終年度であり、これらの結果を論文としてまとめることを第一とする。
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