本年度は以下の解析を行った。 1. 低濃度塩湖である子鉢池、ねずみ池、ありさ池の塩分濃度の異なる塩分躍層上下層の細菌群集構造解析 各池の上層は塩分濃度が0.25-0.79%の低塩分であり、Roseobacter sp.とMarinobacter sp. の共通する菌属が確認された。Roseobacter sp.は海洋性の光合成細菌であり、Marinobacter sp.は海洋性の細菌である。しかしながら特定の菌属が優占せず、特にねずみ池においては、未知のクローンが48%を占めていた。一方高塩分濃度の下層は塩分濃度が1.65-5.1%で幅ガあり、その細菌群集構造は上層に比べてより未知の菌属の割合が多かった。特に子鉢池とねずみ池においては約60%が未知の菌属で占められていた。さらに同定された菌属も数多く出現し、多様性に富んでいることが明らかとなった。 2. 7つの淡水湖沼の細菌群集構造解析 データベース解析からはすべての淡水湖においてThiomicrospira sp.が優占属となり全クローンの48-86%を占める単純な細菌群集構造を形成していた。Thiomicrospira sp.は北極や南極の海洋とアメリカのマクナード基地周辺の滝に生息する。一方、塩湖にも出現したuncultured Flavobacteriaceae、Roseobacter sp.、Marinospirillum sp.などの菌属も数は少ないながら共通に出現した。この結果は海水由来の細菌属が淡水に変化した後でも生息し続けていることが示唆された。淡水湖と塩湖には過剰に酸素が存在することから、これらの細菌群集構造の違いは塩分濃度の違いが原因であることが考えられた。 3. 系統解析 淡水湖と塩湖に出現する細菌属の塩基配列を用いて両池に出現する細菌の系統の違いを調べた。淡水湖のみに出現したThiomicrospira sp.は塩湖と淡水湖に共通に出現するMarinoSpirillum sp.やMarinobacter sp.に近縁であった。塩湖にのみ出現した細菌属はそれ自身を含む単独のクレードに分類され、しかも未培養クローンとして登録されているものが大半であった。このことはこれらの細菌が現在までに培養分離されていない細菌種であるか、もしくは氷河期後に大陸が上昇し取り残された細菌がそのまま南極湖沼において生き続けてきた可能性も考えられる。
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