琵琶湖表層、琵琶湖流入河川に溶存している鉄(II)濃度は手法によって異なる可能性があり、Fe(II)の化学種を推定する鍵になると考えられる。溶存Fe(II)濃度は一般に過小評価であり、その生態系への影響を考慮するために正確な濃度と存在形態を把握し、生物利用可能な形態を決定することを目的とした。結果を以下に述べる。I:昨年度に引き続き、琵琶湖におけるFe(II)の測定を季節毎に採取した。琵琶湖最表層(0.5-1m)では、夏季に直下の深度と比べてFe(II)濃度が高く、同深度の腐植物質濃度と併せると、有機物を介した光分解が起きていることが示唆された。また試水を6時間程度放置しても、検出されるFe(II)濃度はほとんど変化しなかったことから、錯生成など安定化機構の存在が示唆された。なお、湖底付近におけるFe(II)の溶出は顕著ではなかった。II:比較対象となる中栄養湖として、人為的影響が少なく、光反応の影響を強く受けると考えられる、池田湖・鰻池での調査を行った。池田湖表層において、Fe(II)の濃度変化が観察され、鹿児島地方の日射量に応じた変化を示していた。 III:本研究ではPDTS-Fe(II)錯体を固相抽出により濃縮して測定を行っているが、海洋研究者はその低濃度故に化学発光法を用いることが多い。両者の定量値をについて犬上川河川水を用いて比較したところ、PDTSでは10nmo1L^<-1>であったのに対し、化学発光では0.6nmo1L^<-1>となった。PDTS法については錯生成時にFeの酸化あるいは還元が起こる可能性を指摘されているが、今回用いた試薬のpHは6.8であり、還元が起こるとされるpH4よりもかなり高く、定量値の違いは、Fe(II)のスペシエーションによるものと考えられる。
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